※ 個人の感想です

数年前に新聞に掲載されたとても小さな記事だった。フランスはパリ、現代美術の展示をするポンピドゥセンターの分館がパリからは少し離れた街に完成したと。その設計をしたのは日本人の「坂 茂」氏であると。当時彼の功績どころか作品もそのお名前すら知らなかったが、モノクロのポンピドゥセンター・メッスの姿にこころ惹かれたのだった。

数年後、かなうこともないだろうと幻だったその姿を現地で見ることができてそこから坂氏設計の作品を実際に見たいと強く思うようになってきた。

2025年12月。誕生月でもあるので勢いをつけて広島県大竹市にある「下瀬美術館」を鑑賞してきた。大竹市は広島駅からは西にあり在来線で50分近くはかかる。車窓からは静かな地方都市の街並みが見え、育った街と変わらない。到着した大竹駅は改装されたのだろうか美しい橋上駅舎である。そこからシャトルバスで下瀬美術館へ乗せて行ってもらう。海浜公園もあってのびのび広がる公園の一角に美術館はあった。完成からは年月が経っていないので植栽も若々しい。12月は鮮やかな花の開花も少ないが、デザインされた緑を目にするだけでも清々しく思えた。

企画展示を鑑賞するよりも建物を見学することが第一だったので、いつもなら特別展示の内容もあえて下調べせず入場する。春に麻布台ヒルズで観た「松山智一」氏の作品が伸びやかに展示されていて再びじっくり観る機会を得たな、と嬉しくなった。色彩がとても鮮やかなこと、モチーフがスタイリッシュであること、トロンプルイユまではいかないが騙し絵のようにも見える構成。遥か昔に好きだったシルクスクリーン版画作家の「ヒロ ヤマガタ」氏を思い出した。オンリーブラックスタイルはもちろんモノトーンコーディネートも好きではなくむしろ落ち着かない。憧れていたフランスのデザイナーは「クリスチャン ラクロワ」。だから松山氏の作品から溢れかえりそうなほどの色をたくさん浴びて、ソロ活動で美術館にたどり着くまでの不安だった気分が吹っ飛んだ。

展示するのはここの個性である可動式コンテナ。日没後にライトアップされたそれらを館の屋上から鑑賞できる。瀬戸内海の穏やかな海波と島々。やはりディファレントカントリーから来られただろう人々は多く、フジヤマ、キョート・・以外の魅力も知ってもらえてるんだと実感した。

本当は施設内で宿泊したかった。が。財布の事情と折り合わず、敷地内にあるレストランのランチを事前予約してごちそうをいただいた。辛口に言う。メインの魚とパイ包のビーフはどこか物足りなく、絵のようなアレンジはとても素敵だったけれど素材が生きていないなと感じた。10年前の私ならば100点満点のランチをいただいた・・・と満足しただろう。この数年の間に牛肉のフルコースや旬素材を見た目ではなく味のまとまりで完成させているフレンチをいただく経験をしてから、確実に口が「驕った」。

館そのものは鼻血が出るほどの気持ちが盛り上がった。坂氏のシグネチャーである紙管を使ったベンチに座り、次に一人がけの椅子に座って「この椅子家に欲しいな・・・注文生産だとして・・・手が届くお値段じゃないよね」とモノローグが漏れる。メインホールだけではなく通路も曲線の素直さがあり陽光を取り込んだ室内は明、あたたかい巣のようだった。

アルバイトで貯めた小銭を握りしめてやってきてよかった。下瀬美術館。再訪したい。泣き泣きアルバイトを続ける。

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